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大阪高等裁判所 昭和25年(う)1711号 判決 1950年12月26日

被告人

茅原恭平

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪簡易裁判所に差し戻す。

理由

弁護人稲田喜代治の控訴趣意第二点について。

弁護人は原審裁判所は検察官の訴因の変更請求を許容し変更後の訴因につき有罪の判決をしたけれども本件起訴状の訴因とその公訴事実の同一性がないから原判決は違法であると主張する。

記録を調査するに本件起訴状の訴因は被告人は衣料品販売登録店でないのに昭和二十四年十月十日頃大阪市天王寺区大道四丁目三十番地後藤賢一郎方において同人外一名に対し衛生衣千五百枚を販売したというのであり、原判決認定の事実は被告人は他人と共謀の上法定の除外事由なく営利の目的で昭和二十四年十月十日頃大阪市北区若松町三丁目六十一番地三陽商工株式会社で看護衣千五百枚を不当高価で販売する目的で所持していたというにある。よつて両者について公訴事実の同一性があるかどうかを考えてみるに、説明の便宜上三陽商工株式会社の所在地を甲場所、後藤賢一郎方を乙場所と仮称することにする。被告人が若し昭和二十四年十月十日頃本件物件を甲場所において所持し其の頃ひきつづき乙場所において販売の為め本件物件を所持した事実があるならばその所持は前後を通じ一個の所持即ち同一の所持といわなければならない。しかし若し被告人が乙場所において本件物件の所持をしていないならば乙場所に於ける販売行為が所持を含んでいるとしても、それは被告人の所持ではないのであるから、甲場所における被告人の所持とは公訴事実の同一性を欠くものといわざるを得ない。本件記録によると乙場所で本件物件を所持していた者は被告人でなくて西川三好であつたように認められる。若しこのように乙場所において本件物件を販売した者が被告人ではなく従つて同所で販売を実行するために本件物件を所持していた者も被告人ではないことになると本件訴因の変更は公訴の基本的事実即ち所持の同一性を欠くものであつて本件訴因の変更は許してならないものであるから変更後の訴因について有罪の言渡をした原判決は違法であつて、この違法は判決に影響があるから破棄を免れない。

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